2017年9月10日日曜日

発酵食品文化の国

最初に日本の土を踏んだキリスト教の宣教師フランシスコ・ザビエルが、本国に宛てて出した手紙に、

「肉を食べず、殆んど米麦飯のみを食べる」

としながらも、

「それでいて日本人は不思議なほど達者で、高齢に達する者もいる。
したがって空腹が満足しなくても、人間は僅少な食物でも十分な健康を保てることは、日本の場合でも明らかである」

というものでした。


実際に日本人は長い間、米、麦、雑穀などを主食に、季節の野菜、魚介類を食べるという食生活をしてきました。

肉や牛乳、乳製品を食べる国の人から見れば「粗食」と思えただろうし、元気な姿を不思議に感じたのも当然かもしれません。
 
しかし、ザビエルは、日本食のもう一つの大きな特徴が見抜けなかった、ということでもある。

でも、それも仕方がないことかもしれない。

実際に肉眼では見えない、小さな小さな「生き物」に気づかなかったのです。

それは「微生物」であり、これを利用した豊富な「醗酵食品」である。
 
日本は気温、湿度が微生物の発育に適しているため、古くからたくさんの醗酵食品を利用してきました。

その種類の豊富さは世界一と言われています。

それらの微生物を大きく分類すると、カビ、酵母、細菌の3種類に分けることができます。

とくにカビは湿気を好むため、日本では他の国では例を見ないほど上手に利用してきました。

カビにもたくさんの種類がありますが、その中でも麹カビを利用した食品は多い。

日本酒、米酢、みそ、みりん、甘酒、醤油、焼酎、鰹節などです。

日本食は「麹カビ食文化」といわれるほどなのです。
 
酵母は、糟を分解してアルコールと炭酸ガスと水で作るものがほとんどです。

そのため、日本酒、みそ、醤油など醸造食品と呼ばれるもののほとんどに利用されています。
 
細菌の中で、醗酵食品に利用されてきたものとして、乳酸菌や酢酸菌などがあります。

こうした微生物は、それぞれ特色のある性質を備えており、醗酵食品の種類によって、活躍する微生物の種類が決まってくるのです。

例えば納豆は納豆菌、ビールはビール酵母などです。

それに比べ、日本酒の場合は、米麹を作る段階で麹カビ、もと造りの段階で硝酸還元細菌、球状乳酸菌、桿状乳酸菌が出てきて、酒造りの主役にはサッカロミセス・サケと呼ばれる酵母が利用されます。

つまり、日本酒の醗酵には少なくとも5種類の微生物が働き、しかもそれ以外の菌に活躍の機会を与えないように仕組んでいるのです。
 
それを長い間の経験から、それぞれの醗酵食品によって、食塩を加えたり、酸を加えたり、温度や湿度を調整したりすることによって、必要な菌の成育を促し、上手に醗酵させてきたのです。

しかも、すごいことに微生物の存在が分からない時代からそれらを経験的に行ってきたのです。

関連参照:
和食の基礎知識